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Toggle経営事項審査(経審)の点数の付け方徹底解説!
~公共工事受注へのパスポート~
建設業界で公共工事を受注したいと考える建設業者にとって、「経営事項審査(けいえいじこうしんさ)」、通称「経審(けいしん)」は避けて通れない重要な手続きです。
この審査で得られる点数(総合評定値:P点)が、公共工事の入札参加資格や受注できる工事の規模を大きく左右するため、その仕組みを理解することは、企業の成長に不可欠と言えるでしょう。
一般の方にも分かりやすく、経審の点数がどのように付けられるのかを徹底的に解説していきます。
1. 経営事項審査(経審)とは?なぜ必要なの?
まず、経審とは何か、なぜ重要なのかを理解しましょう。
1-1. 経審の目的
経審は、建設業法に基づいて行われる審査です。
国や地方公共団体などが発注する公共工事の入札に参加したい建設業者は、この経審を受けることが義務付けられています。
その目的は、以下の3点にあります。
公正な競争の促進: 建設業者の経営状況や技術力を客観的に評価し、公平な競争環境を整備するため。 不良不適格業者の排除: 経営状態が不安定な業者や技術力が不足している業者が公共工事を受注するのを防ぎ、工事の品質確保や発注者側のリスクを低減するため。 適切な工事の発注: 企業の規模や能力に見合った工事を発注することで、円滑な工事の実施を促すため。
平たく言えば、公共のお金を使って行われる工事なので、「この会社に任せても大丈夫か?」「しっかり最後まで工事をやり遂げられるか?」を事前にチェックする制度なのです。
1-2. 総合評定値(P点)の重要性
経審の結果は、「総合評定値(P点)」という点数で表されます。
このP点が高いほど、その建設業者の経営状態や技術力が優れていると判断され、より大規模な工事の入札に参加できる可能性が高まります。
発注機関によっては、このP点に独自の評価(主観点数)を加えて、最終的なランキング付けを行い、入札に参加できる業者を絞り込んだり、落札者を決定したりします。
つまり、P点は公共工事受注の「パスポート」であり、その点数が高ければ高いほど、より多くの、より大きなチャンスが巡ってくるというわけです。
2. 経審の点数は何で決まるの?5つの評価項目
経審のP点は、大きく分けて以下の5つの項目を評価し、それぞれの点数を特定の割合で合算して算出されます。
総合評定値(P点) = X1 × 0.25 + X2 × 0.15 + Y × 0.20 + Z × 0.25 + W × 0.15
それぞれの項目がどのような内容で、どのように点数が付けられるのか、詳しく見ていきましょう。
2-1. X1:完成工事高評点(経営規模)
これは、過去にどれだけの工事を完成させてきたか、その「売上高」に相当する部分を評価する項目です。
評価対象: 直前2年間(または激変緩和措置により3年間)の年間平均完成工事高。 点数の付け方: 業種ごとに、完成工事高の金額に応じて点数が決められた「評点テーブル」に当てはめて算出されます。完成工事高が多いほど点数は高くなります。例えば、年間平均5,000万円の完成工事高であれば「16 × 50,000 ÷ 10,000 + 565 = 645」といった計算式で評点が算出されることがあります(具体的な計算式は金額帯によって異なります)。 ポイント: 安定的に高額な工事を請け負っている企業ほど評価が高まります。複数の業種で許可を持っている場合、完成工事高を特定の業種に振り替えることで、評点を向上させることも可能です。
2-2. X2:自己資本額および平均利益額評点(経営規模)
企業の体力や収益性を測る項目です。
評価対象 自己資本額: 貸借対照表の純資産合計額(直前決算または直近2年平均を選択可能)。 平均利益額: 利払前税引前償却前利益(EBITDA:営業利益+減価償却実施額)の直近2年間の平均値。 点数の付け方: 自己資本額と平均利益額のそれぞれについて、金額に応じた評点テーブルで点数を算出し、その平均値がX2評点となります。自己資本が厚く、安定して利益を出している企業ほど高評価となります。 ポイント: 自己資本は、増資や利益の内部留保によって増やせます。利益額は、売上を増やし、原価を抑えることで改善が期待できます。
2-3. Y:経営状況評点
企業の経営状況をより詳しく分析する項目です。財務諸表の様々な指標を用いて、企業の健全性や収益性を評価します。Y点は、国土交通大臣の登録を受けた「経営状況分析機関」が分析し、点数を算出します。
Y点には以下の8つの指標があり、それぞれが細かく計算され、合算されます。
- 負債抵抗力(負債抵抗力純支払利息率、負債回転期間)
- 負債抵抗力純支払利息率: (支払利息-受取利息配当金)÷売上高×100。
利息負担が売上に対してどれくらいかを示します。利息負担が少ないほど高評価。 - 負債回転期間: 負債合計÷売上高÷12。負債をどれくらいの期間で回収できるかを示します。期間が短いほど高評価。
- 負債抵抗力純支払利息率: (支払利息-受取利息配当金)÷売上高×100。
- 収益性・効率性(総資本売上総利益率、売上高経常利益率)
- 総資本売上総利益率: 売上総利益÷総資本×100。
総資本をどれだけ効率的に使って利益を上げているかを示します。高いほど高評価。 - 売上高経常利益率: 経常利益÷売上高×100。売上高に対して経常的にどれだけ利益を上げているかを示します。高いほど高評価。
- 総資本売上総利益率: 売上総利益÷総資本×100。
- 財務健全性(自己資本対固定資産比率、自己資本比率)
- 自己資本対固定資産比率: 自己資本÷固定資産×100。
固定資産の購入に自己資本をどれだけ使っているかを示します。高いほど高評価。 - 自己資本比率: 自己資本÷総資本×100。総資本に占める自己資本の割合です。高いほど企業の安定性が高いと判断されます。
- 自己資本対固定資産比率: 自己資本÷固定資産×100。
- 絶対的力量(営業キャッシュフロー、繰越利益剰余金)
- 営業キャッシュフロー: 本業でどれだけ現金を稼ぎ出しているかを示します。黒字で金額が大きいほど高評価。
- 繰越利益剰余金: 過去の利益の蓄積です。金額が大きいほど高評価。
- ポイント: Y点の改善は、日々の経営努力が反映される部分です。
無駄な負債を減らす、売上を増やし利益率を高める、自己資本を充実させるなどの対策が有効です。
2-4. Z:技術力評点
建設業者の技術力を評価する項目です。
- 評価対象:
- 技術職員数: 審査基準日現在の技術職員数と、その保有資格。
- 元請完成工事高: 直前2年間(または3年間)の年間平均元請完成工事高。
- 点数の付け方:
- 技術職員数: 技術職員の資格(1級監理受講者、1級技術者、監理技術者補佐、基幹技能者、2級技術者、その他技術者)に応じて点数が割り振られ、その合計点数から評点テーブルで算出されます。
高位の資格を持つ技術者が多いほど、また技術職員数が多いほど高得点になります。 - 元請完成工事高: 元請として完成させた工事の年間平均額が評価されます。元請工事の実績が多いほど高評価。
- Z評点の算出: 技術職員数点数に4のウェイトをかけ、元請完成工事高点数に1のウェイトをかけて合算し、5で割ったものがZ評点となります。 Z評点=(技術職員数点数×4+元請完成工事高点数)÷5
- 技術職員数: 技術職員の資格(1級監理受講者、1級技術者、監理技術者補佐、基幹技能者、2級技術者、その他技術者)に応じて点数が割り振られ、その合計点数から評点テーブルで算出されます。
- ポイント: 従業員の資格取得を奨励し、技術職員数を増やすことが重要です。
また、元請けとして積極的に工事を受注し、実績を積むことも評点アップにつながります。
2-5. W:その他審査項目(社会性等)評点
企業の社会的な貢献度やコンプライアンス状況などを評価する項目です。
- 評価対象:
- 労働福祉の状況: 雇用保険、健康保険、厚生年金保険の加入状況、退職金制度の導入状況(建退共・中退共など)。
未加入は減点となります。 - 建設業の営業継続の状況: 営業年数、民事再生法・会社更生法の適用有無など。
- 防災活動への貢献の状況: 国や地方公共団体との防災協定の締結、防災協定を締結している団体への加入など。
- 法令遵守の状況: 営業停止処分や指示処分などを受けていないか。
- 建設業の経理の状況: 建設業経理士の配置状況(1級、2級で加点)。
- 研究開発の状況: 研究開発費の計上状況。
- 建設機械の保有状況: 建設機械の保有状況や、特定自主検査の実施状況。
- 国際標準化機構が定めた規格による登録の状況: ISO9001(品質)、ISO14001(環境)などの認証取得状況。
- 若年の技術者及び技能労働者の育成及び確保の状況: 若手育成のための取り組み。
- 労働福祉の状況: 雇用保険、健康保険、厚生年金保険の加入状況、退職金制度の導入状況(建退共・中退共など)。
- 点数の付け方: 各項目に定められた基準を満たしているか、または加点・減点項目に該当するかで点数が加算・減算されます。
- ポイント: 社会保険への加入は必須です。建設業経理士の育成、防災活動への協力、ISO認証の取得、若手育成への取り組みなどが加点につながります。
3. 総合評定値(P点)の計算例
仮に、各評点が以下のようだったとしましょう。
- X1(完成工事高):790点
- X2(経営規模):568点
- Y(経営状況):959点
- Z(技術力):716点
- W(社会性等):636点
この場合、総合評定値(P点)は以下のようになります。
P点=790×0.25+568×0.15+959×0.20+716×0.25+636×0.15
P点=197.5+85.2+191.8+179+95.4
P点=748.9
小数点以下は四捨五入されるため、この場合のP点は「749点」となります。
見てお分かりのように、各項目に掛けられるウェイト(X1:0.25, X2:0.15, Y:0.20, Z:0.25, W:0.15)が異なります。
特にX1(完成工事高)とZ(技術力)のウェイトが大きく、これらの項目での高得点がP点全体に大きく影響することがわかります。
Y(経営状況)も比較的重要なウェイトを占めています。
4. 経審の点数を上げるための具体的な対策
P点の算出方法を理解したところで、実際に点数を上げるためにどのような対策が考えられるかを見ていきましょう。
4-1. 決算期前から戦略的な準備を!
経審の点数は、主に直近の決算書(財務諸表)や工事経歴、技術職員の状況に基づいて算出されます。
そのため、決算が終わってから「ああすればよかった」と後悔しても手遅れになることが多々あります。
決算期に向けて、計画的に対策を講じることが非常に重要です。
4-2. 各項目における具体的な対策
-
X1(完成工事高)の対策:
- 安定的な受注の確保: 定期的に工事を受注し、完成工事高を積み上げていくことが基本です。
- 業種間の振替: 複数の建設業許可を持っている場合、完成工事高を最もP点に寄与する業種に振り替えることを検討しましょう(ただし、ルールに則って適切に行う必要があります)。
- 小口工事も大切に: 小規模な工事でも、積み重ねることで完成工事高は増えます。
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X2(自己資本額および平均利益額)の対策:
- 利益の確保と内部留保: 最も基本的な対策です。
無駄な経費を削減し、売上総利益率を高めることで利益を確保し、それを配当に回さずに内部留保として積み増すことで自己資本が強化されます。 - 増資: 自己資本を直接増やす方法として、増資も有効です。
- 不要資産の売却と負債返済: 遊休資産(使っていない土地や機械など)を売却し、その資金で借入金を返済することで、総資本を圧縮し、自己資本比率を改善できます。
- 売掛金の早期回収: 売掛金(完成工事未収入金)は資産ですが、回収が滞ると経営を圧迫します。
早期に回収し、資金繰りを改善することで、借入金の削減にもつながります。 - 減価償却の活用(ただし注意): 減価償却費は利益を圧縮しますが、手元に現金が残るため、キャッシュフローは改善します。ただし、過度な減価償却は赤字決算につながり、Y点に悪影響を及ぼす可能性があるので注意が必要です。
- 利益の確保と内部留保: 最も基本的な対策です。
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Y(経営状況)の対策:
- 負債の削減: 借入金を減らすことで、負債抵抗力や負債回転期間が改善します。繰り上げ返済なども検討しましょう。
- 売上総利益率の改善: 適切な価格で受注し、原価管理を徹底することで、売上総利益率を向上させます。
- 経費削減: 無駄な経費を見直し、削減することで経常利益を増やします。
- 資金繰りの管理: 安定的なキャッシュフローを確保することで、営業キャッシュフローの改善につながります。
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Z(技術力)の対策:
- 資格取得の奨励: 従業員に資格取得を促し、1級・2級の施工管理技士などの有資格者を増やすことが最も効果的です。資格取得支援制度などを設けるのも良いでしょう。
- 元請工事の積極的受注: 下請け工事だけでなく、元請として工事を受注し、実績を積むことが重要です。
- 技術職員の継続雇用: 技術職員が離職すると点数が下がってしまうため、定着率を高める努力も必要です。
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W(社会性等)の対策:
- 社会保険の加入徹底: 雇用保険、健康保険、厚生年金保険のすべてに加入していることは必須です。
未加入は大幅な減点となります。 - 退職金制度の導入: 建退共(建設業退職金共済)や中退共(中小企業退職金共済)への加入は加点対象です。
- 防災活動への貢献: 地方自治体との防災協定締結や、防災協定を締結している建設業団体への加入は、加点につながる大きな要素です。
- 建設業経理士の配置: 1級建設業経理士や2級建設業経理士の資格を持つ従業員を配置することで加点されます。
- ISO認証の取得: ISO9001(品質マネジメントシステム)やISO14001(環境マネジメントシステム)の認証を取得することで加点されます。
- 社会保険の加入徹底: 雇用保険、健康保険、厚生年金保険のすべてに加入していることは必須です。
5. 経審対策の注意点と専門家への相談
5-1. 決算書と経審の連動
経審の基礎となるのは、日々の企業活動の記録である決算書です。
特に財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)の数字がそのまま点数に反映されます。
そのため、経審対策は単なる点数稼ぎではなく、健全な企業経営を行うことと密接に関わっています。
5-2. 虚偽申請は絶対にNG
点数を上げたいからといって、虚偽の申請を行うことは絶対に許されません。
発覚した場合は、建設業許可の取消しや指名停止など、重い罰則が科せられます。
常に事実に基づいた正確な情報で申請を行いましょう。
5-3. 専門家への相談のすすめ
経審の仕組みは複雑であり、点数アップのための具体的な対策も多岐にわたります。
自社だけで全てを把握し、最適な対策を講じるのは難しい場合もあります。
そのため、建設業に詳しい行政書士などの専門家への相談を強くお勧めします。
専門家は、以下のようなサポートをしてくれます。
・現状分析と目標設定: 自社のP点をシミュレーションし、目標とする点数達成のために必要な対策を具体的に洗い出します。 ・財務改善のアドバイス: 決算書の内容を分析し、X2やY点の改善に向けた財務的なアドバイスを行います。 ・技術者配置の最適化: 技術職員の資格状況を把握し、Z点アップのための最適な配置や資格取得計画を提案します。 ・W点の加点項目への取り組み支援: 社会性等の加点項目について、具体的な取り組み方法や証明書類の準備をサポートします。 ・申請書類作成の代行: 複雑な申請書類の作成を代行し、正確かつスムーズな申請を支援します。
6. まとめ:経審は企業の総合力が試される場
経営事項審査は、建設業者の「総合力」が試される場です。
単に売上を伸ばすだけでなく、財務体質の強化、技術力の向上、そして社会的な責任を果たすといった多角的な視点での経営が求められます。
経審の点数を高めることは、公共工事受注のチャンスを広げるだけでなく、結果として企業の経営基盤を盤石にし、持続的な成長を実現することにもつながります。
ぜひ今回の解説を参考に、自社の経審対策を見直し、公共工事市場でのさらなる活躍を目指してください。
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